ユニクロの急成長は、ポリエステルなどのポリマーを原料とする機能性の高い人工繊維を利用した、スタイリッシュな衣料開発に支えられています。
人類は木綿、麻、羊毛、絹をで作った衣服を着てきましたが、天然繊維は今後出番がなくなるのでしょうか。
いえ、綿の肌着はやはり着心地がよく、初夏は麻のジャケットが涼しく、冬は羊毛のセーターは暖かい。
人工繊維は価格こそ手頃ですが、機能は天然繊維に追いついてはいません。

絹でつくった着物の手触りと光沢感は、人工繊維とは比べ物にならず、今でも最高級品の衣料です。
明治時代にさかのぼると、絹は日本の最大の輸出品で、富岡製糸工場が竣工した時代には世界一の生産量を誇っていました。
人工繊維はこの絹を目指して作られてきました。
フランスのシャルドンネは1884年にニトロセルロースから絹によく似た光沢(Ray)をもつ人工繊維をつくりました。
「レーヨン」と名付けられたこの繊維は日本でも盛んに生産され、三菱レーヨン、東レ(東洋レーヨン)、クラレ(倉敷レーヨン)、帝人(帝国人絹)などの企業名にその名残があります。
1935年には米国デュポン社のカローザスは絹並みの美しさと強度をもつナイロンの合成に成功しました。
ナイロンの出現により、それまで花形だった日本の製糸業は大きな打撃を受けました。
そのため日本でも人工繊維の研究が促進され、京都大学の桜田一郎教授の研究室でポリビニルアルコールを原料とするビニロンが開発されました。
ビニロンは親水性、吸湿性があり、綿に似た風合いの人工繊維として、現在でも衣服に利用されているのです。

ポリマーと天然高分子はともに鎖状の分子ですが、なぜ天然高分子の方が機能的に優れているのでしょうか。
羊毛や絹を構成するタンパク質を例にするとその違いが顕著にわかります。
ポリマーは通常無秩序の形態をとっていますが、タンパク質は図に示すような規則的な立体構造をとっています。
このような形態の違いがポリマーと天然高分子の性質の違いを生みます。
高分子化学者は今、タンパク質のような立体構造をもつポリマーを作ろうと日々頭を悩ましています。
皆さんが自分の娘のために着物を用意する未来には、絹と見分けがつかない人工繊維でつくった振袖が登場しているかもしれません。

蚕のタンパク質であるフィブロインが作る美しい立体構造

図:蚕のタンパク質であるフィブロインが作る美しい立体構造
PDBデーターpdb3ua0からpymolを用いて作図した。

田中レンジャー