東北・仙台で研究をしている山本です。
今週になって仙台を含む東北地方も梅雨入りしました。(今年は6/13ごろ)
本格的な雨の季節がやってきました。

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写真1: 岩手県早池峰山麓で数年前に撮ったあじさい

雨ニモマケズ
風ニモマケズ…
とは、東北・岩手県出身の宮沢賢治さんの詩ですが、雨の日も楽しんで行きたいものです。

そんな雨の季節になると大活躍するのが、傘やレインコートなどの雨具です。
今回はこういった雨具について、「雨をはじく材料ってどうやったら作れるのか?」について取り上げてみます。

雨具にとって大切なことは「雨がかかっても濡れない」ということです。

もし、新聞紙で傘を作ってしまった場合。
雨がかかるとすぐに水がしみこんでしまい、ひょっとすると破れてしまうかもしれません。これでは使っている人を雨から守ることができないので、傘としては役に立ちません。

ですが、実は「紙で作った傘」というのは世の中にあります。
最近よく使われている洋傘ではなく、昔から日本にある和傘には、和紙に油を塗った「油紙」が使われています。和紙はお習字で使う半紙のように、何もしなければ水を吸いやすい材料です。(半紙に水を垂らしてみたことがある人は多いでしょう。)ですが、和紙の表面に油を塗ることで雨をはじくようになります。ですので、油紙で作った傘は使っている人を雨から守ることができます。

このように、雨をはじく材料をつくるには、「表面」をどうやって工夫するかが大切であることが分かります。

では、どのような表面を設計すれば雨をはじく材料ができるでしょうか?
それには2つの大切な方法があります。

1.水となじまないものを表面に塗ること
2.なるべく凸凹した表面を作ること

まず、1の「水となじまないもの」ですが、その良い例が油です。
「水と油のような」といった例えにも使われるほど、油は水と混ざり合わないものの代表選手です。こういった油やそれに類するものを表面に塗って乾かす(*1)ことで水をはじく表面ができあがります。

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写真2:混ざり合わない水とオリーブ油。上にある黄色い層がオリーブ油の層。

次に、2の凸凹の表面を作ることですが、この良い例が葉っぱ、特にハスの葉っぱです。
ハスやサトイモの葉っぱには顕微鏡で表面を拡大してみるととても小さな凸凹があります。こうした凸凹があると水がかかったときにも、水滴と葉っぱのふれあう面積が小さくなり、凸凹が無いときよりもさらに水をはじくようになります。(*2)

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写真3:ハスの花と葉

ですので、「油みたいなもので出来ている、凸凹の表面」が水をはじく上では理想的だ、ということになります。

では、そういう表面はどうすれば作ることが出来るでしょうか?
私たちの研究室ではそういう「水をはじく表面」を作る方法についても研究しています。方針は先ほどの2つ。「水となじまないもの」を「凸凹にする」こと。

私たちは水となじまないものとして、フッ素という元素の入った高分子(*3)を使いました。そして凸凹の表面を作るのですが、このために一つ一つの凸凹を手作業で作っていたのでは手間も時間もかかってしまいます。(もちろんその結果として、できた材料の値段も上がってしまいます。)ですのでうまく工夫をして「勝手に凸凹な表面が出来上がるような」(*4)都合の良い方法がないものか研究を進めてみました。すると、表面に高分子を塗るときの方法をうまく工夫することで、非常に細かなつぶつぶな表面が自然に出来るような塗り方を見つけることができました。

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写真4:我々が作ったつぶつぶな表面を電子顕微鏡で拡大してみた写真。右下の長さが0.005 mmに対応しています。

この表面に水を垂らすと水をよくはじきます。写真はこの表面に水滴を落とした時を撮ったものですが、水滴がほとんどまん丸で表面にほとんど接していないことが分かります。

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写真5:先ほどの写真4の材料の上に水を垂らした時の写真。水をよくはじいています。

この表面では、水滴はすこしつついただけで動かすことが出来ます。

また、少し傾けて置いた表面では水滴がコロコロ転がり落ちていきます。


このようにして、「賢く・簡単に」水をはじく表面をつくることができました。
今回は「水をはじく」という機能に注目しましたが、いろんな機能を持つ材料をなるべく「賢く・簡単に」作り上げることを目指して、私たちは日々研究を進めています。

雨の季節です。
傘の上についた雨粒にもこのようなサイエンスの世界が広がっています。
雨音を聞きながらこういう世界に考えをめぐらせていれば、雨の日も悪くはないかも。

 

補足
*1和傘にも使われる油紙には、植物から取った油でも特に空気中の酸素と反応して固まりやすい「乾性油」が使われます(亜麻仁油や桐油など)。乾性油では油の中に不飽和脂肪酸が多く含まれ、これが酸素との反応で網目状の高分子を作るために空気中で「乾いて固まる」のです。

*2 こういう効果をロータス効果といいます。ロータス(lotus)とは英語でハスのことですね。

*3 フッ素の入った高分子は身の回りでもよく使われています。例えばフライパンの表面には水や油をはじく目的でテフロン®というフッ素を含む高分子が塗られています。

*4 こういった、「勝手に望みのカタチが出来上がる」ことを「自己組織化」と呼びます。こういった自己組織化をうまく使うことで、極めて小さいものを簡単に作り出すことが出来ます。こういう小さいものの作り方を「ボトムアップ型」の製造技術と呼びます。逆に、手作業で凸凹を一つ一つつくるような方法を「トップダウン型」と呼びます。

やまもと支部レンジャ-