はじめまして!関西支部レンジャーの弓場(ゆば)です。
10月1日から3日にかけて、ノーベル賞の自然科学系3賞が発表され、生理学・医学賞には、京都大学の本庶 佑(ほんじょ たすく)先生を含む2氏が選ばれました。

今回の受賞でみなさんも目にすることが多くなったであろう「がん免疫療法」って何?という疑問にお答えするために、高分子未来塾®の中で、がん免疫療法に関する研究をしているゆばレンジャーに白羽の矢が立ちました。
この記事では、ノーベル賞の対象となった成果について解説しつつ、がん免疫療法についてご説明します。
がん免疫療法は、一言で言えば、私達の身体をウイルスや細菌などの異物から守っている「免疫」を使って、がんをやっつけよう、というものです。

わたしたちがインフルエンザにかかると、リンパ球(T細胞やB細胞など)のはたらきが活発になり、ウイルスに感染してしまった細胞やウイルスを除去することで、インフルエンザが治ります。
これが免疫のはたらきです。

がんは、身体の中で生まれた異常な細胞が無差別に増殖する病気ですが、免疫系はわたしたちの身体の中をパトロールして、このような異常な細胞を見つけ、がんになる前にやっつけてくれています。
こうやって、わたしたちはがんにならないよう、免疫に守られているわけです。

一方で、免疫系が過剰にはたらいて、正常な細胞まで傷つけてしまわないよう、T細胞などのリンパ球には「ブレーキ」が取りつけられています。
今回のノーベル賞を受賞したお二人が発見したのは、このブレーキ分子のはらたきです。
CTLA-4、PD-1というむずかしい名前がついていますが、ここではどちらも「ブレーキ」分子と考えてください。

研究の結果、がん細胞は、このブレーキ分子を悪用して、T細胞などの免疫細胞が自分たちを攻撃しないようにはたらきかけていることがわかってきました(図1)。
こうして免疫からの攻撃を逃れた異常細胞がどんどん増殖し、がんという病気として発見されるわけです。

図1 がんが免疫のブレーキ分子を悪用して免疫から逃れる仕組み

免疫のブレーキ分子を発見した本庶先生たちは、じゃあ、このブレーキを外してあげれば、T細胞ががん細胞を認識して、がんを再び攻撃できるのではないか、と考えました。

このようにして開発されたのが、免疫チェックポイント阻害剤、という薬です。
この薬は、CTLA-4やPD-1に「だけ」くっつくことで免疫のブレーキを解除し、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにすることで、非常に強力ながん治療を実現しました(図2)。
実際の治療現場での成功によって、免疫を用いてがんを治療する「がん免疫療法」が、いまや第4のがん治療法として広く認識されるようになってきました。

図2 免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法

「ブレーキ分子のはたらきの発見」という基礎研究から、がん治療への応用まで、ノーベル賞を受賞されたお二人が、本当に大きな功績を上げられたことが分かっていただけたかと思います。

しかし、この新しい治療法も万能ではありません。
効果がある人は2~3割程度とされており、なぜ効く人と効かない人に分かれるのかを解明することが必要とされています。
CTLA-4・PD-1以外のブレーキ分子がはたらいている、という説や、患者さんの体内に、がん細胞を認識して攻撃するためのT細胞がいない、という説が挙げられていますが(図3)、多くはいまだ謎のままです。

図3 がん細胞を認識できるキラーT細胞が患者体内にない場合、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果はほとんどないと考えられている。

また、治療費がとても高額であることも問題になっています。
この薬は、抗体、という生体高分子が主成分です。
抗体をつくるためには非常に大きなコストがかかるため、化学的に合成できる分子でこれを代用しよう、という研究も行われています。

今回のノーベル賞受賞で、がん免疫療法が大きな注目を集めましたが、手術や抗がん剤治療のように、本当の意味で身近な治療法になるには、まだまだ多くの研究・開発が求められています。
ゆばレンジャーも、未来の免疫療法の開発に貢献するために、頑張りたいと思います!

弓場レンジャー
http://www2.chem.osakafu-u.ac.jp/ohka/ohka9/index.htm