こんにちは、野々山レンジャーです。
これまで7回行ってきた会社取材ですが、コロナ禍の移動制限・自粛のため、企業を直接訪問することが難しい状況でした。
そんな中、現在急速に利用が進んでいるビデオ会議システムを使って、第8回はオンラインで取材を行いました。
高分子学会からは、東京大学の増田造先生、京都大学の佐々木善浩先生、事務局の中島由恵さんに参加して頂きました。
今回快くオンライン取材を引き受けて下さったのは、高知県土佐市にある廣瀬(ひろせ)製紙株式会社さんです。
廣瀬製紙さんは、元々「土佐和紙」を手掛けていた和紙メーカーとして始まり、現在では、まさに今のコロナ禍で皆さんが毎日使用しているマスクにも使われている重要な材料「不織布」を主に製造しています。
今回は、マスク用の不織布を含めて、様々な用途に使われている機能性不織布を、取締役の馬醫(ばい)さんに紹介して頂きました。

参加者の皆さんとオンライン取材の様子

不織布とは?
まず、そもそも不織布とはどういったものでしょうか?
普通の布と異なるのは、読んで字の如く、「織っていない」ということです。
普通の布は、原料繊維(食物繊維:パルプ、三椏、楮、動物繊維:羊毛、シルク、カシミア、化学繊維:ナイロン、レーヨンガラス繊維など)を最初に撚って糸を作り、それを織って作製されます。
一方で不織布は、原料の繊維に圧力や熱などの処理を行って、そのままシート状に成形したものになります。
その製造工程上、通常の布と比べて薄く軽いことが特徴的で、廣瀬製紙さんは世界で一番薄い不織布を作る技術を持っています!

乾式・湿式不織布
不織布は、主に乾式法と湿式法を用いて製造されています。
乾式法は、原料繊維を薄く広げて接着剤を噴霧した後、加熱加工をして成形しています。
主に新聞紙やおむつ等がこの方法で作られています。
一方で湿式法は、原料繊維を水などの溶媒に均一に分散させた後、圧縮・熱処理乾燥過程を経て作製されます。
身近なもので言えば使い捨てマスク、コーヒーフィルター、ティーバッグなどがあります。
この方法では、ムラがない表面が滑らかな不織布が得られます。


確かに新聞紙とフィルターを比べると、新聞紙の表面の方が粗い触り心地ですよね。
また、異種繊維を容易に混合して新たな機能を付与した不織布を作ることができる、非常に薄い不織布が得られる、多層構造の不織布を製造できるなど、廣瀬製紙さんでは多くの利点や応用の幅が広い湿式法を主に採用しています。
和紙製造の頃から、水質日本一にも輝いたことのある仁淀川に工場が隣接し、綺麗な地下水が得られることも、質の高い湿式不織布を製造できる大きな理由です。
ここでは乾式、湿式に関わらず身の回りの主な不織布製品の一覧を示します。

廣瀬製紙さんの機能性不織布
この中で特に、廣瀬製紙さんの主力製品であるベースとなる不織布に様々な処理を施した機能性不織布をいくつか紹介します。
① 耐油性の不織布は、カステラなどの油分の多いお菓子の包み紙に使用され、油が紙に染み込まないような繊維原料を用い、さらに耐油性処理を施しています。
② 繊維ならではの絶縁性と不織布の高いイオン透過性を利用して乾電池のセパレータに利用されています。
③ 不織布に金属メッキ加工を施したシートは、スマートフォンやパソコンなどの電子機器に組み込まれており、電磁波を防ぐシールド材として用いられています。
私たちの身の回りには様々な電磁波が飛び交っていて、それが電子機器に当たり、電子回路に予期しない電流が流れ不具合が起こることを防いでいます。
さらに、丈夫で水をよく通す性質の不織布は濾過膜として用いられています。
④ 発展途上国では飲水確保のため、逆浸透膜法とよばれる海水の淡水化技術を導入しています。
逆浸透膜法では、濾過フィルターに高い圧力がかかるため、丈夫な不織布が必要不可欠です。
また、汚水処理施設などで水を綺麗にする際にも活躍しています。
⑤ 近年高い断熱性と軽量さが注目されているシリカエアロゲルを複合した不織布を開発しました。
写真のように、熱したホットプレートの上に、そのまま氷をおいた場合と、この不織布を敷いて置いた場合を比較すると、高い断熱性能により不織布上の氷がほとんど溶けない様子がわかります。
この不織布は、身近なところではスマホのカメラ部分、スマートウォッチ、ヘアアイロンに搭載されています。


独自技術、エレクトロバブルスピニング法による「ナノファイバー不織布」
ここからは、廣瀬製紙さんの独自技術で開発したナノファイバー不織布について紹介します!
ナノは10-9倍を表す言葉で、1ナノメートルは、0.000000001メートルと非常に小さいスケールです。


その名の通り、ナノファイバー不織布は通常の不織布と比べて、極めて細い繊維からできている不織布です。
写真は、通常の不織布の繊維とナノファイバー不織布の繊維の比較の電子顕微鏡写真です。
真ん中の太い繊維が通常の湿式法で作られた不織布の繊維です。
この繊維であっても通常の糸と比べると格段に細い(0.016ミリメートル)ですが、ナノファイバー不織布の繊維はそれよりも100分の1程度細いことがわかります(125ナノメートル)。


このナノファイバー不織布は、独自技術のエレクトロバブルスピニングと呼ばれる手法で作製されています。
動画にエレクトロバブルスピニング法の様子を示します。
ナノファイバー不織布となる原料の高分子が分散した溶液がブクブクと泡立っています。
この泡とナノファイバー不織布を回収する基盤(コレクター)との間に高い電圧をかけると、泡から極めて細い繊維が電位勾配に沿って基材の方へ飛び出し、この間に溶媒が蒸発して、ナノスケールの細い繊維が形成されます。click

昨今のコロナウィルス感染症のため、皆さんが毎日着けているマスクにポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなるナノファイバー不織布が使われています。
使い捨てマスクの表と裏は通常の不織布ですが、実はほとんどのマスクは写真のように3層構造になっており、表と裏の不織布の間に目の細かいシートが入っています。
まさにこれがナノファイバー不織布で、主にこの部分が花粉やPM2.5、ウィルスなどをカットしてくれています。
皆さんも使い終わって破棄するマスクがあれば、ハサミで切ってみて中を確かめてみましょう!


このエレクトロバブルスピニング法では、PVDFの他に親水性のポリビニルアルコール(PVA)や耐薬品性の高いポリアクリロニトリル(PAN)などの汎用高分子を使うことができ、それらの高分子の性質・特徴を生かした付加価値の高い機能性ナノファイバー不織布が今後私たちの身の回りの製品に使われていくようです。
今回取材させて頂いた廣瀬製紙さんでは、YouTube動画を作製し社内外の宣伝活動に積極的に活用しています。今回の取材の内容も3編の動画を作製して公開しています。
ぜひこちらもご覧になって頂けると嬉しいです!
【高分子未来塾 第1弾】廣瀬製紙ってどんな会社?
【高分子未来塾 第2弾】ナノファイバー不織布とは?
【高分子未来塾 第3弾】廣瀬製紙の今後について?

野々山レンジャー