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開会の挨拶(H24年度若手幹事 九州大学 藤ヶ谷剛彦)
 今回は多くの参加者にとって交通の便が必ずしも良くない場所での開催であったにも関わらず100名を超える若手参加者を集めることができて非常に嬉しく思います。これも九州若手の勢いと一体感を示す数字だと感じとても誇りに思います。今回も参加者から招待講演の先生への「質問カード」を実施し、講演の先生からの回答を頂戴しましたのでご覧ください(正直な話が聞けて面白いです)。

招待講演

星野 友 先生(九州大学大学院工学研究院 助教)
「高分子ナノ粒子の分子認識機能設計」


 ドラックキャリアとしても注目される高分子ナノ粒子において「プラスチック抗体」という新しいコンセプトを提唱し、活躍されています。ランダム共重合という古典的な手法でありながら強い抗体のような強い分子認識能を持つスマートな高分子ナノ粒子に関するご講演をいただきました。

質問カードQ&A

 参加者からの質問 星野先生からの回答 
 プラスチック抗体のペプチド認識能に関する質問
 メリチンとナノ粒子の結合様式(化学量論)はどの様に求めたか?  グラムのナノ粒子あたりのメリチンの結合 量をメリチンの毒性中和実験から求め、ナノ粒子内の 官能基の数を1H-NMR, 13C-NMRで求めました。両者の比からナノ粒子内の官能基とメリチンの化学量 論比を求めることができます(参考文献1)
 疎水性あるいは静電的相互作用だけでは何故ダメなのか?  強い相互作用を達成するためには標的ペプチドと高分子が多点で結合する必要があります。メリチンを標的とした場合、メリチンが有する電荷や疎水性残基の数は限られているので多点認識するためには疎水性相互作用と静電的相互作用を両方利用する必要があります(参考文献2)。
 疎水性を増やしたナノ粒子を合成できない理由は? 一般にタンパク質は疎水性が高いほど水中で沈殿しやすくなります。疎水性を増やしたナノ粒子も同様に疎水性モノマーを増やしすぎると水中で会合し沈殿してしまいます(参考文献1)。 
 ナノ粒子の粒径とメリチン結合能の関係はあるのか?  数10ナノメートルから数百ナノメートルの範囲ですとメリチン結合容量と粒径の関係は殆ど観察されていません。しかし、ナノ粒子と同じ組成のフィルムにしてしまうとメリチン結合挙動は有意に減少します(参考文献1)。これはサイズが大きくなった際に拡散が律速となったためだと考えています。ナノ粒子ではなく直鎖状高分子にした際は、逆に結合容量が大きくなるようです。この辺りの結果に関しては来年くらいに論文発表する予定です。
 高分子の構造と結合能の関係は?また今後高分子の一次構造、分子量をもっと制御しないのか?  同じモノマー組成であってもアフィニティー精製(参考文献3)やインプリント重合前後(参考文献4)で結合力が変わることから、ナノ粒子内における分子レベルの官能基分布やモノマー配列、立体規則性によりメリチン認識能が異なっていると考えています。現在、リビング重合法を使って様々な分子量やモノマー分布の高分子ライブラリーを開発し、メリチンとの相互作用を調べています。この辺りの結果に関しては来年くらいに論文発表する予定です。
 メリチン以外の標的分子、例えばタンパク質のような大きな分子を標的にできるか?  官能基の組合せや導入量を調節することでIgG(参考文献5)やリゾチーム(参考文献6)、 ヒストンやフィブリノーゲン(参考文献7)と相互作用するナノ粒子を調製できることがわかっています。
 ナノ粒子の構造を温度やpHで可逆的に変化させた後、分子認識能に変化はあるのか?  アフィニティー精製により精製したナノ粒子の分子認識能は温度により構造変化を誘起しても温度を戻せば元に戻ることを確認しています(参考文献3)。今後、ナノ粒子の機能が可逆的にフォールドすることを注意深く証明したいと考えています。
 アクリル系ではなくメタクリル系の高分子ではダメなのか?  メタクリル系の高分子であっても水中で安定なナノ粒子を合成できれば、同様の設計が可能だと考えています。
 インプリント重合では図のようにきれいな3次元構造が本当にできているのか?  できていないと考えています。インプリント重合とはいえランダム共重合ですので様々な結合サイトが生成されていると考えています。
 プラスチック抗体のアフィニティー精製に関する質問
 アフィニティー精製前後の高分子の違いは?  メリチン結合能と相転移挙動はアフィニティー精製前後で変化する事がわかっています。しかし、1H-NMRと13C-NMRで化学組成は精製前後で変化しないことを確認しています。立体構造や官能基の局在が異なるのだと考えています。
 アフィニティー精製の際、メリチンと相互作用しなかったナノ粒子の使い道はあるのか?  同じ組成のナノ粒子(アフィニティー精製前)が他のペプチドやタンパク質とも相互作用することがわかっています。よってメリチンと相互作用しなかったナノ粒子溶液から他のペプチドやタンパク質と相互作用するナノ粒子をアフィニティー精製することが可能だと考えています。
 アフィニティー精製の収率が低い理由は? またアフィニティー精製の収率を上げられないのか?  ナノ粒子はフリーラジカルによるランダム 共重合により合成されているので、分子量、モノマー配列、立体規則性がランダムです。その為、メリチンと強く相互作用するナノ粒子の数も限られています。リビング重合法のようなより精密な合成方法により高分子を合成すれば、強く結合する高分子をより高収率で得ることができると考えています。
 アフィニティー精製とインプリント重合どちらが良いか?  強く結合する高分子を高収率で得るには両者を組み合わせるのが一番良いと思います。しかし、コストのことを考えるとアフィニティー精製の方が優れていると考えています。
 アフィニティー精製したナノ粒子を解析して量産できないか?  アフィニティー精製後のナノ粒子も粒径が数十ナノメートルでありメリチンに比べると非常に大きいのでNMR等では精製前と違いを見ることができません。より小さな高分子であれば精製前後の構造の違いを詳細に解析し、結果を合成方法に反映することで収率を向上できると考えています。
プラスチック抗体の体内利用に関する質問
 ナノ粒子の血中動態はどの様になっているのか?またメリチン結合前後で変化するか?  ナノ粒子の血中動態は良くないです。1時間で半分以上が肝臓にトラップされます(参考文献1)。メリチンとの結合により動態が変化するかどうかは調べていません。
 ナノ粒子自体の体内毒性はないか?LD50は?  メリチン結合性ナノ粒子の毒性は極めて低いことがわかっています。かなり高濃度までテストしましたが細胞毒性は全く観察されていません(参考文献1)。LD50は調べていませんがかなり高い濃度まで注射しても毒性は観察されていません(参考文献1)。
 即効性はあるか?  メリチン中和実験においてはかなり短時間(数分)でメリチンの毒性を中和していると考えています(参考文献1)。
 ナノ粒子への血中タンパク質の非特異結合はないのか?またそれによる副作用はないのか?  血中においては様々な血中タンパク質がナノ粒子に結合し得ると考えています。それにより動物体内でのペプチド中和活性は動物体外での中和活性より低くなっています。しかし、現在用いているナノ粒子に関しては非特異結合による副作用(毒性)はないと考えています。標的分子やナノ粒子の種類によっては重篤な副作用も予想されます。この辺りの詳細は参考文献1で詳しく議論しています。
 肝臓に移行した後のナノ粒子はどうなるのか?毒性はないのか?また、ナノ粒子の体外排出機構はどの様になっているのか?  肝臓のクッパー細胞に捕捉されたナノ粒子は、2週間後でも数10%が肝臓内にとどまっていることを確認しています。より長期間でナノ粒子が分解されるかどうかは調べていません。クッパー細胞に捕捉される前に尿から排出されるナノ粒子も存在します。
CO2吸収ナノ粒子に関する質問
 相転移前後でpKaが変化する理由は?  アミン(ブレンステッド酸・塩基)のプロトン解離平衡は、アミン間の距離やアミン周囲の環境に影響を受けます。アミン間の距離が非常に近い場合、アンモニウムカチオン間の静電反発が大きくなるためプロトン化された状態が不安定になり脱プロトン化される方向に平衡がシフトします(pKaが低下する)。また、アミンが周囲の環境が疎水性になった場合もアンモニウムカチオンが不安定化され脱プロトン化される方向に平衡がシフトします(pKaが低下する)。相転移前後でpKaが低下するのは、ナノ粒子の収縮によりアミン間の距離が近接し、周囲の環境が疎水性になるためだと考えています(参考文献8)。
 どれくらいのCO2を吸収放散可能か?  アミン一分子に対してCO2一分子の可逆的吸収放散を確認しています(参考文献8)。
 吸収放散サイクルは繰り返し可能か?  可逆的に吸収放散できることを確認しています(参考文献8)。
 アミンの種類と吸収性能の関係はあるのか?  現在様々なアミンを有するナノ粒子ライブラリーを合成し、CO2吸収性能を比較しています。この辺りの結果に関しては来年くらいに論文発表する予定です。
 架橋剤の濃度と伸縮・吸収挙動の関係は?  現在様々な架橋密度、濃度のナノ粒子溶液ライブラリーを調製し、CO2吸収性能を比較しています。この辺りの結果に関しては来年くらいに論文発表する予定です。
参考文献
1,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,109, 33-38 (2012).
2,Small, 5, 1562-1568 (2009).
3,J. Am. Chem. Soc.,132, 13648-13650 (2010).
4,J. Am. Chem. Soc., 130, 15242-15243 (2008).
5,J. Am. Chem. Soc.,134, 15765-15772 (2012).
6,Angew. Chem. Intl. Ed., 51, 2405-2408 (2012).
7,Biomacromolecules, 13, 2952–2957 (2012).
8,J. Am. Chem. Soc.,134, 18177–18180 (2012).

高島 義徳 先生(大阪大学大学院理学研究院 助教)
「ホスト-ゲスト相互作用を通した超分子重合触媒と機能性超分子材料の作製」


 環状オリゴ糖であるシクロデキストリンをホストとし、小分子をゲストとする先生が先駆的に進められている研究の紹介を頂きました。この分子認識を使って重合制御から一分子観察、超分子修復ヒドロゲルなど幅広く展開している迫力満点のご講演でした。

質問カードQ&A

 参加者からの質問 高島先生からの回答 
シクロデキストリンの空孔径や高さはどうやって測定したか? シクロデキストリンの空孔径や高さは単結晶X線構造解析によって決定されております。
シクロデキストリンの空孔内部が親水性で外が疎水性の誘導体を合成できるでしょうか?またCDでCDを包接することは出来るでしょうか? 内部を親水性にするには、グルコースのC-H のプロトンをC-CH3の様にすれば出来るかもしれません。糖自身を合成することになりますので、難易度は高いです。「CDでCDを包接」に関しては、α-1,4結合にてグルコピラノースユニットが結合されている為、角度が規制されており、8員環以上の大きさに成ってきますと、変形してきます。このため、なかなか、「CDでCDを包接」を包接は難しいのだと思われます。
分子フラフープの回転方向の違いについて、および回転の原理について、 シクロデキストリン(CD)の空孔内は不斉場となっており(α-1,4結合にて繋がれている)、本来は回転方向の区別が出来るはずです。一方でビデオ撮影とは言え、数百ミリ秒に一回撮影しています。CDの回転周期と画像の取り込み間隔により、実際には時計回りのはずが、逆回り、または止まっていたりといった画像が見られる可能性もあります(所謂、コマ落ち。テレビCMで車のタイヤが進行方向と逆方向に廻っているように見えたりする。)真の回転方向を決定するのは難しいですね。”球”があって”バット”を修飾して、打ち返してくれたら、分かりやすいですが。。
当研究室でもCDを用いた合成を行っていますが、なかなか進みません。 御相談出来ることが御座いましたら、御連絡下さい。ただ、、CD誘導体の合成は確かに手間が掛かります。基本的にCDは水溶性のため、精製方法が糖化学かペプチド合成を参考にしているところが多いです。
CDを用いたラクトンの開環重合において、一つのCDに一つのポリマー鎖だけが修飾されているが、複数個修飾されることは無いのか? この重合条件(無溶媒下での熱重合)では、多置換体が生成し難いようです。DMF中にて100度以上に加熱すると、多置換体も精製すると思います。一方でDMF中ではラクトンは重合は致しません。CDでラクトンの重合を行う時、水酸基を持たない修飾CDやCDの空孔の外側に向いた水酸基のみ残した修飾CDを用いても重合は進行いたしませんでした。CDの内側に向いた水酸基が反応性が高い一方で、一置換体が生成されると、残された水酸基は新たなラクトンを水素結合にて活性化して、挿入反応を促進しているものと考えられます(IRスペクトル測定にて検証済み)。
 CDを用いた重合反応について、ラクトン以外のビニル系モノマーの可能性は如何か?  現在、研究室にてビニル系モノマーを用いて、重合反応を検討しております。もちろんCDのみではラジカル重合は出来ませんので、RAFT試薬をCDに修飾した超分子触媒を開発しております。
 CDダイマーを用いた重合において、ダイマーの架橋長と重合活性に相関関係が有りましたが、これはゲストモノマーの分子サイズとも関係しますか?  重合の結果、架橋長とモノマーが開環して、直鎖状になった鎖長に相関関係があり、仮に環サイズの小さいモノマーや大きいサイズのモノマーを用いれば、重合活性の極大は距離が短い方が良かったり、長い方が良かったりと変化すると考えております。
 CDダイマーを用いた重合において、リビング重合性はどうか?  モノマーの添加量に応じて、分子量は調整できますが、分子量分布については1.5-2の間ですので、リビング重合性は低いです。一方で、CDダイマーは空気中でも安定ですので、モノマーと触れさえすれば重合反応が進行しますので、酸を加えて壊さない限り、基本的に”リビング”です。
 自己修復性超分子材料に関しまして、切断面を手動で着けると、分子レベルではずれていると考えられますが、  仰られます通り、さすがに手で再接着を行っておりますので、分子レベルではずれていると思います。再接着のときに、切断面表面に存在するフリーのホストCDとゲスト分子が再会合することにより、接着が実現していると考えられます。その過程で分子が揺らぎ最安定構造まで再配向して、材料強度が回復したと考えられます。自己修復に時間が必要な点も、この最安定構造に至るまでの時間と考えております。
 自己修復性超分子材料に関しまして、切断面では無い面同士または切断面と切断面では無い面同士を接触させた場合、どうして接着しないのでしょうか?  私共も正直、ここまで切断面選択的に再接着が起こるとは思っておりませんでした。おそらく、切断面にはフリーのホストCDとゲスト分子は多数存在しているのに対して、非切断面は既に包接錯体を形成して安定な状態に有るものと思われます。もちろん包接錯体は会合と解離を繰り返す動的なものですので、接着する可能性があると思いますが、今回の材料の場合、高分子鎖にホスト分子とゲスト分子を修飾しておりますので、多価性の相互作用により非常に強く錯体形成しているものと思われます。結果、フリーのホスト分子やゲスト分子が接触されても、解離し難く、非常に遅い平衡と考えられます(我々が計測した48時間以内では、)この選択性は温度を上げたりするとより動的な平衡へと変化しますので、解消されてしまう可能性があると考えられます。
 自己修復性超分子材料に関しまして、何度でも破断、修復は行うことは出来るのでしょうか?  3回は繰り返しても、ほぼ初期の材料強度まで回復する様です。
 自己修復性超分子材料に関しまして、破断面同士が再接着することは分かりましたが、異なる破断面同士でも接着するのではないでしょうか?  仰る通りでして、異なる破断面同士でも破断面にフリーのホスト分子とゲスト分子が分散していると考えておりますので、再接着致します。これでもし、異なる破断面同士では、再接着せず、特定の破断面同士が再接着するなら、パズルをばらばらにしても、シャーレの中で振ったら、元の状態に戻るようなパズルになるんですがね。
 ゲルとゲルの接着において、ゲルを押しつける圧力が影響してることはないか?  接着させる時の圧力が影響するのは、初期のみと考えております。ゲルの表面に水が有りすぎると、逆に接着を阻害してしまいます。一方で接触面の間の水が排出されれば、後は材料強度が流れるような性質を示さないため、大きな誤差を生まないようです。実際、数十回と実験を行っておりますが、比較的小さな誤差で済んでおります。
 自己修復性超分子材料に関しまして、水は必要ですか?  有る程度は必要だと考えておりますが、特別、必要は無いと考えております。分子の揺らぎが低下するだけですので、固体状態でも理論的には包接錯体も出来ますし、再接着すると思います。ただし、自身の自重に耐えるくらいの接着力が形成されるかといった問題と回復に時間が掛かるだけと考えております。自己修復率を算出する上で、条件を整えるために最大膨潤させております。逆に水を吸収しすぎている為に、回復が遅くなっている可能性も考えられますが、その辺りの条件統一が困難ですので、検討できておりません。
 超分子ヒドロゲルを用いた今後の応用展開、  自己修復材料については、そのままコーティング材料やパッケージに使えれば良いのですが、実用化するにはハードルは高いと思います。ヒドロゲルで機能が強く発現される思いますので、医療用用途を考えており、現在、医学部の先生とも連携を取っております。


山本 洋平 先生(筑波大学大学院工学研究院 准教授)
「パイ共役分子の自己組織化による新材料の構築と新展開」


 ド。


 参加者からの質問 山本先生からの回答 


ポスター発表&表彰式


ポスター発表の様子。会場が狭くて申し訳ありません。学生の熱意もあって凄い熱気でした。

見事ポスター賞を獲得した宇都君(宮崎大・湯井研)と張さん(九大・田中研)と幹事

研究室紹介
今年2度目の研究室紹介でネタに苦しむかと心配しましたが、予想に反してまたまた
ハイクオリティーの研究紹介が続出しました。やっぱり九州の学生は凄いですね。