参加者からの質問 |
星野先生からの回答 |
プラスチック抗体のペプチド認識能に関する質問 |
メリチンとナノ粒子の結合様式(化学量論)はどの様に求めたか? |
グラムのナノ粒子あたりのメリチンの結合 量をメリチンの毒性中和実験から求め、ナノ粒子内の 官能基の数を1H-NMR, 13C-NMRで求めました。両者の比からナノ粒子内の官能基とメリチンの化学量
論比を求めることができます(参考文献1) |
疎水性あるいは静電的相互作用だけでは何故ダメなのか? |
強い相互作用を達成するためには標的ペプチドと高分子が多点で結合する必要があります。メリチンを標的とした場合、メリチンが有する電荷や疎水性残基の数は限られているので多点認識するためには疎水性相互作用と静電的相互作用を両方利用する必要があります(参考文献2)。 |
疎水性を増やしたナノ粒子を合成できない理由は? |
一般にタンパク質は疎水性が高いほど水中で沈殿しやすくなります。疎水性を増やしたナノ粒子も同様に疎水性モノマーを増やしすぎると水中で会合し沈殿してしまいます(参考文献1)。 |
ナノ粒子の粒径とメリチン結合能の関係はあるのか? |
数10ナノメートルから数百ナノメートルの範囲ですとメリチン結合容量と粒径の関係は殆ど観察されていません。しかし、ナノ粒子と同じ組成のフィルムにしてしまうとメリチン結合挙動は有意に減少します(参考文献1)。これはサイズが大きくなった際に拡散が律速となったためだと考えています。ナノ粒子ではなく直鎖状高分子にした際は、逆に結合容量が大きくなるようです。この辺りの結果に関しては来年くらいに論文発表する予定です。 |
高分子の構造と結合能の関係は?また今後高分子の一次構造、分子量をもっと制御しないのか? |
同じモノマー組成であってもアフィニティー精製(参考文献3)やインプリント重合前後(参考文献4)で結合力が変わることから、ナノ粒子内における分子レベルの官能基分布やモノマー配列、立体規則性によりメリチン認識能が異なっていると考えています。現在、リビング重合法を使って様々な分子量やモノマー分布の高分子ライブラリーを開発し、メリチンとの相互作用を調べています。この辺りの結果に関しては来年くらいに論文発表する予定です。 |
メリチン以外の標的分子、例えばタンパク質のような大きな分子を標的にできるか? |
官能基の組合せや導入量を調節することでIgG(参考文献5)やリゾチーム(参考文献6)、 ヒストンやフィブリノーゲン(参考文献7)と相互作用するナノ粒子を調製できることがわかっています。 |
ナノ粒子の構造を温度やpHで可逆的に変化させた後、分子認識能に変化はあるのか? |
アフィニティー精製により精製したナノ粒子の分子認識能は温度により構造変化を誘起しても温度を戻せば元に戻ることを確認しています(参考文献3)。今後、ナノ粒子の機能が可逆的にフォールドすることを注意深く証明したいと考えています。 |
アクリル系ではなくメタクリル系の高分子ではダメなのか? |
メタクリル系の高分子であっても水中で安定なナノ粒子を合成できれば、同様の設計が可能だと考えています。 |
インプリント重合では図のようにきれいな3次元構造が本当にできているのか? |
できていないと考えています。インプリント重合とはいえランダム共重合ですので様々な結合サイトが生成されていると考えています。 |
プラスチック抗体のアフィニティー精製に関する質問 |
アフィニティー精製前後の高分子の違いは? |
メリチン結合能と相転移挙動はアフィニティー精製前後で変化する事がわかっています。しかし、1H-NMRと13C-NMRで化学組成は精製前後で変化しないことを確認しています。立体構造や官能基の局在が異なるのだと考えています。 |
アフィニティー精製の際、メリチンと相互作用しなかったナノ粒子の使い道はあるのか? |
同じ組成のナノ粒子(アフィニティー精製前)が他のペプチドやタンパク質とも相互作用することがわかっています。よってメリチンと相互作用しなかったナノ粒子溶液から他のペプチドやタンパク質と相互作用するナノ粒子をアフィニティー精製することが可能だと考えています。 |
アフィニティー精製の収率が低い理由は? またアフィニティー精製の収率を上げられないのか? |
ナノ粒子はフリーラジカルによるランダム 共重合により合成されているので、分子量、モノマー配列、立体規則性がランダムです。その為、メリチンと強く相互作用するナノ粒子の数も限られています。リビング重合法のようなより精密な合成方法により高分子を合成すれば、強く結合する高分子をより高収率で得ることができると考えています。 |
アフィニティー精製とインプリント重合どちらが良いか? |
強く結合する高分子を高収率で得るには両者を組み合わせるのが一番良いと思います。しかし、コストのことを考えるとアフィニティー精製の方が優れていると考えています。 |
アフィニティー精製したナノ粒子を解析して量産できないか? |
アフィニティー精製後のナノ粒子も粒径が数十ナノメートルでありメリチンに比べると非常に大きいのでNMR等では精製前と違いを見ることができません。より小さな高分子であれば精製前後の構造の違いを詳細に解析し、結果を合成方法に反映することで収率を向上できると考えています。 |
プラスチック抗体の体内利用に関する質問 |
ナノ粒子の血中動態はどの様になっているのか?またメリチン結合前後で変化するか? |
ナノ粒子の血中動態は良くないです。1時間で半分以上が肝臓にトラップされます(参考文献1)。メリチンとの結合により動態が変化するかどうかは調べていません。 |
ナノ粒子自体の体内毒性はないか?LD50は? |
メリチン結合性ナノ粒子の毒性は極めて低いことがわかっています。かなり高濃度までテストしましたが細胞毒性は全く観察されていません(参考文献1)。LD50は調べていませんがかなり高い濃度まで注射しても毒性は観察されていません(参考文献1)。 |
即効性はあるか? |
メリチン中和実験においてはかなり短時間(数分)でメリチンの毒性を中和していると考えています(参考文献1)。 |
ナノ粒子への血中タンパク質の非特異結合はないのか?またそれによる副作用はないのか? |
血中においては様々な血中タンパク質がナノ粒子に結合し得ると考えています。それにより動物体内でのペプチド中和活性は動物体外での中和活性より低くなっています。しかし、現在用いているナノ粒子に関しては非特異結合による副作用(毒性)はないと考えています。標的分子やナノ粒子の種類によっては重篤な副作用も予想されます。この辺りの詳細は参考文献1で詳しく議論しています。 |
肝臓に移行した後のナノ粒子はどうなるのか?毒性はないのか?また、ナノ粒子の体外排出機構はどの様になっているのか? |
肝臓のクッパー細胞に捕捉されたナノ粒子は、2週間後でも数10%が肝臓内にとどまっていることを確認しています。より長期間でナノ粒子が分解されるかどうかは調べていません。クッパー細胞に捕捉される前に尿から排出されるナノ粒子も存在します。 |
CO2吸収ナノ粒子に関する質問 |
相転移前後でpKaが変化する理由は? |
アミン(ブレンステッド酸・塩基)のプロトン解離平衡は、アミン間の距離やアミン周囲の環境に影響を受けます。アミン間の距離が非常に近い場合、アンモニウムカチオン間の静電反発が大きくなるためプロトン化された状態が不安定になり脱プロトン化される方向に平衡がシフトします(pKaが低下する)。また、アミンが周囲の環境が疎水性になった場合もアンモニウムカチオンが不安定化され脱プロトン化される方向に平衡がシフトします(pKaが低下する)。相転移前後でpKaが低下するのは、ナノ粒子の収縮によりアミン間の距離が近接し、周囲の環境が疎水性になるためだと考えています(参考文献8)。 |
どれくらいのCO2を吸収放散可能か? |
アミン一分子に対してCO2一分子の可逆的吸収放散を確認しています(参考文献8)。 |
吸収放散サイクルは繰り返し可能か? |
可逆的に吸収放散できることを確認しています(参考文献8)。 |
アミンの種類と吸収性能の関係はあるのか? |
現在様々なアミンを有するナノ粒子ライブラリーを合成し、CO2吸収性能を比較しています。この辺りの結果に関しては来年くらいに論文発表する予定です。 |
架橋剤の濃度と伸縮・吸収挙動の関係は? |
現在様々な架橋密度、濃度のナノ粒子溶液ライブラリーを調製し、CO2吸収性能を比較しています。この辺りの結果に関しては来年くらいに論文発表する予定です。 |
参考文献
1,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,109, 33-38 (2012).
2,Small, 5, 1562-1568 (2009).
3,J. Am. Chem. Soc.,132, 13648-13650 (2010).
4,J. Am. Chem. Soc., 130, 15242-15243 (2008).
5,J. Am. Chem. Soc.,134, 15765-15772 (2012).
6,Angew. Chem. Intl. Ed., 51, 2405-2408 (2012).
7,Biomacromolecules, 13, 2952–2957 (2012).
8,J. Am. Chem. Soc.,134, 18177–18180 (2012). |