先号では、50年以上の長い期間コンタクトレンズ素材として使用されてきたゲル素材のご紹介をさせて頂きました。
研究や科学に興味を持ってこのサイトをご覧になっている皆さんからは、「では、50年以上、技術革新はなかったの?」という疑問が上がると思います。
そんなことはないですよ。
瞳の健康を守るため、少しでもたくさんの酸素を黒目(角膜)に届けたいと、様々な研究が行われてきました。
コンタクトレンズには、ゲル素材から出来たソフトコンタクトレンズ以外に、シリコーン成分を使用することで、水を含まずに高い酸素透過性を実現した酸素透過性ハードコンタクトレンズがあります。
少し難しい話になりますが、ソフトコンタクトレンズの場合、酸素がゲルの中の水に溶け、水とともに運ばれます。
これに対して、シリコーン成分の場合、シリコーンの鎖に直接酸素が溶け、鎖の隙間を通り抜けてゆきます。
水に溶ける酸素に比べ、シリコーンに溶ける酸素の量は約10倍、素材の中を通り抜ける速さも約2倍、そのためシリコーン素材の酸素透過性の方が格段に高いのです。

 
そこで、シリコーン素材の長所と、ゲル素材の長所を併せ持った素材ができないかと登場したのが、シリコーンハイドロゲルと言われる素材です。
実はソフトコンタクトレンズはハイドロゲルレンズとも呼ばれており、“シリコーン”とソフトコンタクトレンズ、つまり “ハイドロゲル”をくっつけたのが、シリコーンハイドロゲルの語源です。
シリコーンハイドロゲルの構造を、ナノ(1mmの100万分の1)の世界で観察してみると、こんな構造をしています。


水と仲良しのハイドロゲル領域と、油に近いシリコーン領域を、ケンカしないように一緒にするための研究が、10年以上続けられました。
その結果、ハイドロゲルから出来ている領域の中に、シリコーン領域が鎖のように広がる構造が実現しました。
この構造を実現できたことで、シリコーンハイドロゲルから作ったレンズは柔らかく、一方、シリコーン領域の中を、たくさんの酸素が通り抜けられるため、高い酸素透過性も持ちます。
50年以上前から使用されてきたハイドロゲル、そこにシリコーン技術を持ち込んだシリコーンハイドロゲルが加わり、ゲル素材は、ますますコンタクトレンズの世界で活躍しています。

伊藤恵利(株式会社メニコン)企業レンジャー