2019年9月25日に福井市にある日華化学さんの研究開発拠点「NICCAイノベーションセンター」を見学してきました。
日華化学さんは界面科学をコア技術として、親水・疎水化、乳化分散、洗浄、浸透、起泡・消泡、吸着、潤滑、表面の高機能化などの多岐にわたる製品を生み出しています。

界面を制御する上で欠かせない重要な物質が「界面活性剤」です。
界面活性剤の基本的な構造は、図のような親水的な頭と疎水的なしっぽから成ります。
このように親水・疎水の両方を持つ性質を両親媒性と言います。
身近な界面活性剤として、石鹸・洗剤が挙げられます。
まずはこの洗剤を例にとって、界面活性剤の性質についてみていきましょう。

界面活性剤の構造と汚れを除去する原理

お皿の表面に油などの汚れが付着していて、それを洗剤と水で洗い流すことにしましょう。
一般的に水洗いで取れない汚れは疎水的なものが多いです。
ここに界面活性剤を添加すると、疎水的なしっぽを汚れ側に、周りが水なので親水的な頭を外側にしてまとわり付きます。
スポンジでこすったり、水ですすぐなどすると、界面活性剤が汚れの下側にも入り込み、最終的に汚れを完全に包んでお皿から剥がします。
このように界面活性剤は親水・疎水の両方の性質を持っているため、水の中で油を包んだり、逆に油の中で水を包んだりできます。
それでは、具体的に日華化学さんの製品・技術をみていきましょう。

最初は、古紙をリサイクルして再生紙にする際のインクを抜く脱墨(だつぼく)剤の技術です。

古紙と脱墨剤を一緒に入れて撹拌すると、古紙が細かくパルプへ分解されます。
洗剤の原理と同様に脱墨剤の疎水部分が疎水的なインクにくっつき、パルプから剥がされます。
さらにこの脱墨剤は泡を安定に形成させる役割があります。
発生させた泡が脱墨剤によって安定化され、浮力で表面まで移動します。
その間、脱墨剤によって閉じ込められたインクを巻き込み、重いインクを泡の浮力で表面まで運びます。
これによって、パルプとインクを簡単に分離して紙を再生させることができます。
近年、紫外線で硬化して紙に定着させるUV硬化型インクが普及しており、一般的なインクより硬いため、これまでの脱墨剤では、十分な脱墨作用が得られませんでした。
日華化学さんは世界で初めて、硬いUV硬化型インクを細かく分解する触媒作用を持った脱墨剤を開発しました。
触媒作用とは、化学反応を促進させる性質のことを言います。
この次世代脱墨剤によって、硬いインクも細かく分解でき、それによって泡で表面まで運ぶことに成功しています。
実際の顕微鏡の画像をみると、UV硬化型インク対応脱墨剤では黒いインクが少なく粒も小さいことがわかります。

脱墨剤の処理機構と紙の顕微鏡観察

続いては、染料の固定化技術(フィックス剤)です。

福井県はもともと繊維産業が盛んな地域で、日華化学さんも繊維用薬剤の事業が大きな柱の一つです。
色が濃い洋服と白い服を一緒に洗濯したとき、白い服に色移りしてしまった経験はないでしょうか。
色素と繊維間の結合様式の違いから、染料は大きく分けて反応染料と直接染料に分けられます。
反応染料は、その名の通り化学反応により繊維と色素が強い共有結合で結びつき、非常に色素が外れにくい特徴があります。
一方で直接染料は、繊維と色素間の水素結合などの比較的弱い物理結合により染色されているため、色素が外れやすく色移りしやすい課題があります。
そこで高分子界面活性剤が色素の固定に役立ちます。
繊維をアニオン系の染料で染色した後に、色素とイオン結合できるカチオン系の高分子界面活性剤を処理すると、高分子が染料を上から蓋をするように閉じ込めて、染料を不溶化して強い固定効果を発揮します。

フィックス剤による染料の閉じ込め

3つ目は、髪の毛の補修剤です。

髪の毛をキレイに染めるとき、まずは髪の毛の黒い色素であるメラニンを抜くブリーチ処理を行い脱色します。
このとき、メラニンの存在していた場所に小さな空洞ができます。
これを「メラニンクラック」と言い、この小さな欠陥構造が原因で髪の毛の強度が下がり、すぐにちぎれてしまいます。またこのメラニンクラックは、枝毛やパサつきの原因にもなります。
そこで日華化学さんでは、このスカスカの空洞を埋めて髪の毛の強度を向上させる補修剤を開発しています。
補修剤は、髪の毛の主成分であるケラチンや体の主要タンパク質であるコラーゲンなどを加水分解して小さくしたものから成り、シャンプーの際にこのメラニンクラックに入り込み、髪の毛を本来の強度に戻します。
研究所では、実際の髪の毛を使って研究開発しており、髪の毛を引張試験機で引っ張って強度の改善を評価していました。
欠陥構造が強度を低下させることは、初期欠陥のサイズが大きいほど材料の強度が下がるプラスチック材料の開発に通ずるものがあり、非常に興味深い内容でした。

メラニンクラックの観察とそれによる髪の毛の破断

最後に紹介するのは、消泡剤です。

例えば塗料をキレイにムラなく塗るとき、泡は天敵です。
塗料は粘度があるので、一度泡が形成されるとなかなか消えてくれません。
こういったときに泡を素早く壊す消泡剤が活躍します。
図のように泡を拡大してみると、薄い液体の膜状になっており、そこに界面活性剤が張り付いて敷詰まっています。
泡は常に動いていて膜の一部が周りに引っ張られて薄くなり、最終的に膜が破れて泡が消失します。
ここに界面活性剤が存在すると、薄くなった状態から元に戻ろうとする力が働き、厚みを保とうとするため、泡が安定になります。
消泡剤は、この敷詰まった界面活性剤の間に割って入り、界面活性剤を押しのけます。
すると界面活性剤の濃度が下がることで薄い状態から元に戻ろうとする力が弱まり、膜が破れやすくなります。
日華化学さんでは、いろんな要望に答えて泡の消えやすさや、自然の中で分解される地球に優しい消泡剤を開発しています。

消泡剤による泡消しのメカニズム

余談ですが、日華化学さんのNICCAイノベーションセンターは、2017年にオープンした、研究所とは思えないほどキレイでカッコいい建物です。
まるでアメリカの大手IT企業のようなデザイナーズオフィスで、気持ちよく働きやすい環境と思いました。
また、一般の方向けの製品や技術の展示ブースがあり、近くに寄った際は是非見学することをオススメします!
(注:個人の方向けの見学はおこなっておりませんのでご注意下さい)

 

 


NICCAイノベーションセンターと見学の様子

*文中の写真・イラスト等は同社webサイトより引用させていただきました。

野々山レンジャー