はじめまして、高知大学(中国・四国支部レンジャー)の仁子(にこ)と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。

今回は『蛍光』のお話をしようかなと思います。
このコラムを読む中学~高校生の皆さんにとっては、一見、『高分子』と関係ないように見えるかもしれませんが、しばしお付き合いください。

皆さんは、『蛍光』と聞くと何を想像しますか?
多くの人は、蛍光灯、蛍光ペン…科学への関心が強い人は、蛍光タンパク質なんてもの(クラゲから発見されたアレです)も出てくるかもしれません(図1)。
はい、それらは全て正解です。
今この場では、とりあえず「蛍光とはピカピカ光るものだ」と考えてくれればOKです。


図1 『蛍光』の名がつくアレコレ

それでは、そもそも蛍光とは何か?ということについてもう少し触れていきましょう。
図2の上を見てください。
高校生になると、原子・分子というものを覚えてくるかと思います。
原子や分子というのは、それらに何かしらの刺激を与えることにより“余分なエネルギー”を獲得して興奮状態になります。
そして、この興奮状態にある原子・分子は、その余分なエネルギーをなんとかしようと、熱を放出したり、他の分子を攻撃したり…中には『光』を放出することもあります。
この分子が放出した光を『蛍光』と呼び(注)、また蛍光を放出しやすい分子のことを蛍光分子・蛍光色素などと呼びます。
イメージしにくい人は、大人気アニメ『ドラ○ンボール』を思い出してください。
登場人物(=蛍光分子)は『気を溜めて』(=余分なエネルギー獲得)、かめ○め波(=蛍光)を放ったり、直接攻撃したりしますよね。それとよく似ています。
(注)興奮状態(電子励起状態)にある分子が放出する光は、「蛍光」の他にも「燐光」というものがあります。ぜひ、一度勉強してみてください。


図2 (上)蛍光の仕組み(下)蛍光分子の例とフォトルミネッセンス

この蛍光分子、あるいは蛍光という現象は、先に述べた蛍光灯やら蛍光ペンやら、皆さんの生活にも深く関わっています。
最近では、スマートフォンのディスプレイに使われている有機ELもその一つですね。
有機ELの場合は、蛍光分子に刺激として電圧をかけ(電界印加)、蛍光を放出させています。
これはエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)と呼ばれ、略して EL です。
(刺激が光で合った場合、それはフォトルミネッセンス(Photoluminscence: PL)と呼ばれます(図2下))。

さて、ここまで蛍光のお話をしましたが、これと『高分子』とどういう関係があるの?という声が聞こえてきそうですが、もう少し我慢してください。

次は、蛍光分子を生物・医学分野で利用した例についてみていきましょう。
蛍光分子をヒトの細胞に導入し、蛍光放射させることで、その細胞内部の構造や、細胞内で起きている化学反応を可視化することができます(図3左)。
これは蛍光イメージングと呼ばれる技術ですが、生細胞の機能を理解する上でとても役立ちます。
細胞だけでなく、マウスのような動物を扱うこともできます。
マウスの血管に蛍光分子を打ち込むことで、血管が収縮する様子や血液が流れる様子を観察することができます(図3右)。
マウスに薬剤を摂取させた後にこうした血管のイメージングを行えば、その薬剤がどこでどのように働いているかを理解することができます。
他にも、蛍光分子を使って腫瘍を発見・観察することや、骨の内部を観察することだって不可能ではありません。

 

 

 

 

 

 

 

図3 (左)生細胞および(右)マウスを用いた蛍光イメージング(※マウスを用いた蛍光イメージング画像は愛媛大学医学系研究科の川上良介准教授からご提供いただきました)

どうでしょう、凄くないですか?蛍光分子。
しかしですね、蛍光分子の生物・医学分野における利用というものは、そんな簡単なものではありません。蛍光分子はこの世界に数えきれないほどあるのですが、それらを実際に利用しようとすると様々な制約がかかってきます。
ここでは、蛍光分子の『明るさ』に注目してみましょう。
先述の動物体内を観察する研究ですが…このとき、蛍光分子は動物の体の中で蛍光を放出することになります。
そして我々は、体の中から体の外へと通り抜けてきた蛍光を観察することになります。
つまり、蛍光分子の発する蛍光が充分に明るくないと、蛍光が体外まで出てこられず、我々は何も観測できません。
これは現在も非常に重要な課題となっており、世界中で「とにかく明るい蛍光分子を作ろう!」と研究している人が沢山います。
明るければ明るいほど、体の中の様子をしっかりと観察できるようになるためです。

さあ、ようやく高分子の登場です。
現在、「とにかく明るい蛍光分子」を開発するための主流の一つが、『高分子ナノ粒子の利用』になっています。
ナノ粒子というのは、直径が数十~数百ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1メートル)の小さい粒です。
高分子でできたナノ粒子をどのように利用するかと言うと…発想は非常にシンプルです。
一言で言ってしまうと、ナノ粒子の中に蛍光色素を100 個とか1000個とか詰め込んでしまえば、そのナノ粒子は無茶苦茶明るく光る蛍光材料になるのでは?という感じです(図4)。
ちょっとサギみたいに聞こえるかもしれませんが、これが実に効果的なのです。


図4 蛍光分子を包摂した高分子ナノ粒子

それでは、どのような高分子がナノ粒子として使用されているのでしょうか。
これは色々あります。
一つだけ例をあげるなら、メタクリル酸メチル(methylmethacrylate: MMA)、メタクリル酸(methacrylic acid: MA)という二つのモノマー分子を連結させたPoly(methyl methacrylate-co-methacrylic acid)(PMMA-MA)という共重合体(コポリマー)がよく使用されています。
MMAもMAも、高校の教科書に記載されている分子で、ここでは MMA が多めに使用されているようですね。
ここで大事なのは、MMAは水に溶けにくく、逆にMAは水に溶けやすいという性質がある点です。
このような水に溶けやすい成分と、溶けにくい成分を両方有しているような高分子を水中に分散させると、水に溶けない成分がクシャクシャっと丸まって、水に溶けやすい成分を外側(水側)につき出したような粒子が形成されることがあります。
これが高分子ナノ粒子です。
蛍光分子と高分子を予め混ぜておいてから水中へと分散させることで、蛍光分子をナノ粒子内部に取り込ませることが可能です。
これは、蛍光分子の多くは水への溶解性が高くない、すなわち水との相性が悪いので、蛍光分子にとってはナノ粒子の外側(水)よりも内側の方が居心地いいからですね(言い換えると、水に溶けやすいものは PMMA-MA ナノ粒子内部に入れることはできません)。
こうしてできた、蛍光分子を含有するような高分子ナノ粒子が発する蛍光は、当然ですが蛍光分子一つの場合と比べて非常に明るくなります。
したがって、これらは動物を用いた実験に適した蛍光材料となります。
PMMA-MA をナノ粒子として使うメリットは沢山あります。
先にお伝えしたように、蛍光分子の多くは水に溶けにくい性質があります。
これは、細胞や動物を使った応用において問題になる(例えば、水に溶けないと血管に打ち込めない、など)ことが多いのですが、ナノ粒子の内部に取り込ませてしまえば解決です。
他にも、PMMA-MA は生体適合性が高いため、動物に害を与えにくいといった点が挙げられます。
一方で、現在も PMMA-PMA を超える新しい高分子を作ろうという研究が行われていますし、またナノ粒子への詰め込みに適した新しい蛍光分子の開発も行われています。

以上、蛍光と高分子、この二つが組み合わさることで生物・医学分野においてとても有用な材料を開発できることを紹介してきました。
かくいう私も、こうした研究に取り組む一人です。
私が作った蛍光材料で、未だ観測されたことのない「動物体内の現象」を見つけ出すことを目標にしています。

蛍光分子は全て低分子であるわけでなく、「蛍光性の高分子」というものも存在し、本コラムで紹介したものとは異なる応用研究も沢山存在します。
COVID-19 の影響で、自宅で悶々としておられる方も多いかと思いますが、これを機会にちょっと蛍光と高分子について調べてみてはいかがでしょうか。
私としては、本コラムが皆様の「退屈凌ぎ」になれば幸甚です。

にこ支部レンジャー